現時点で満足のできるキーボードを作った

もうすぐエンドゲームか...?

ここ半年くらい、納得のいくキーボードを作りたいとずっと思っていた。分離式キーボードの良さに気づいてしまってからというもの、もはや通常のキーボードでは我慢できなくなってしまった。肩が凝っていると錯覚してしまうためだ。

分離式キーボードを求める旅はまだ続く でも触れたのだが、私が欲しいと思っているキーボードは下記のようなものだ。

  • 無線接続できる。できれば 2.4GHz のドングル接続が良いが、 Bluetooth でも可
  • 背が低い。Cherry MX 軸だとパームレストが必要になってしまうので却下
  • Type-C で充電可能。乾電池やボタン電池でも可

今回、上記を全て満たすキーボードを作ることができたので、紹介したい。

できたもの

4x5 の格子状のマクロパッドである Keyfuda 04 キーボードを 2 個使うことで、分離式キーボードとして利用できるようにした。

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完全無線なので、真ん中に ビール 飲み物やマウスを置くことができる。

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打っている様子はこんな感じ。

自作の経緯

Corne Cherrry の修理

色々なキーボードを分解したり改造した結果、自分が納得できる分離式キーボードは市場に存在せず、ある程度は自作しなければならないという覚悟を持った。自作のためには、はんだ付けなどの電子工作をする必要があり、あまり気が進まなかったのだが、色々調べてみるとはんだ付け自体はそこまで難しくないらしい。そこで、手始めに兄から借りて壊した Corne Cherry を修理しようと思い、遊舎工房(有名な秋葉原の自作キーボード専門店)に行くことにした。修理には Pro Micro というパーツが必要なのと、工作室ではんだを借り、うまくいかなかったら遊舎工房のスタッフに助けてもらえると期待したからだ。

ちなみに、兄から借りた Corne Cherry の故障は、 Pro Micro の USB 端子がもげてしまったという、あるあるの症状だった。前に遊舎工房に相談に行った時に、これは Pro Micro ごと交換するしかなく、そのためにはハンダ付けが必要だと言われ、そこから放置してしまっていた。ハンダ付けが必要と聞いた瞬間にもう無理だと思ってしまったが、今回挑戦するきっかけになってくれて良かった。

珍しく早起きした結果、昼前には遊舎工房に到着。秋葉原は無限に時間を消費できるので、早めに行かないとすぐに店が閉まってしまうのは過去の経験から学習済みだ。

交換用の Pro Micro を購入し、工作室を借りた。レンタル料はかかったものの、工作室でハンダ吸い取り機(有料)を借り、使い方を教えてもらったついでに、はんだ付けやキーボードに関して遊舎工房の方に色々教えてもらったので、良い選択だったと思う。ハンダ付けは高校の技術の時間以来だったので、不安だったが、親切に教えてくれた。ありがとうございます。

事前の調査通り、はんだ付けは思ったより難しくなかった。本来、修理だけして帰るつもりだったのだが、自信が付いたので、店にあるキットを買って、何か作ってみたいなと思った。

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Keyfuda 04 を購入

遊舎工房の店内を物色し、 Keyfuda 04 という自作キーボードの初心者用キットを発見した。このキーボードはキーが 20 個しか無く、マクロパッドやテンキーとしての利用が想定されていると思われるが、これを 2 個並べれば、両手で 40 個ものキーが使える。レイヤー機能を使うことを前提とすれば十分メインのキーボードとして運用できるのではないかと判断した。

私が Keyfuda 04 に惹かれた特徴は以下のとおりだ。

  • BLE Micro Pro に対応しており、ビルドガイドでも触れられているので、簡単に無線化できそう。BLE Micro Pro の使い勝手も試せる
  • ロープロファイル(kailh スイッチ 、 Choc v1)に対応しており、コンパクトかつ打ちやすい高さ
  • 安いし無駄がない。ほとんど基盤のみで 3,300 円(2023 年 3 月)

結局、遊舎工房でとりあえずその日はキットをひとつ買って、秋葉原でハンダごてと周辺パーツを買って帰宅した。ちなみに買ったハンダごては温度調節機能が無い、30W 固定のものだ。LED ライトの取り付け作業をしなければ、320℃ のみで事が足りるという事前調査をしておいて良かった。本当は家に物を増やしたくなかったが、秋葉原への交通費と遊舎工房の利用料の方が高いので、この際だから買ってしまった。こうして人は沼にハマっていくのだっろう。

他に、遊舎工房で下記を揃えた。

  • Kailh V1 スイッチ(白軸, Clicky)
    • 昔、青軸のクッリク感のすごいキーボードを使っていて楽しかったので、騒音は承知で白軸を買ってみた
  • Kailh ロープロファイル キーキャップ
    • 黒で無刻印
  • BLE Micro Pro 本体と、専用の電池基盤

上記と Keyfuda 04 、合計でだいたい 10,000 円くらいだった。片手で 10,000 円なので、それなりの出費ではある。でもキーボードのためだったら妥協はできないし、電子工作は自らの勉強でもあると割り切った。

BLE Micro Pro が 5,000 円くらいで一番高かったので、将来的に Raspberry PI Pico などで Bluetooth が使えるようになっていけば、もっと価格が下がるかもしれない。と思って少し調べたら、ちょうどこの記事を書いている 2 日前に日本でも使えるようになっていたらしい。 QMK が動くかはわからないが、選択肢が広がるのは素晴らしいことである。

Raspberry Pi Pico W で Bluetooth をお試し - Qiita

Keyfuda 04 をビルド

Keyfuda 04 は入門用キットだけあって、割と簡単に作れた。ハンダ付けが必要だったのは電池基盤だけで、あとはスイッチをはめ込んだりするだけだった。基盤と BLE Micro Pro を繋ぐ「コンスルー」という部品のみ遊舎工房で買えなかったので、 スイッチサイエンス というサイトで 背の低いコンスルー 12 ピン を買った。

ハンダ付けは鉛が発生するためキッチンの換気扇下で行った。DIY で余った板を下敷きにしている。

こて台も買おうかと思ったのだが、そんなに頻繁にハンダ付けするわけでもないので、十分に注意した上で付属の簡易こて台とクリーナーで代用できそうだ。また、ハンダ吸引器も、そんなに数が多くなければ吸い取り線で代用できることも分かった。一番困ったのはダイオードの向きで、調べてもアノードとかカソードとか抽象的な説明が多く、時間がかかってしまった。ダイオードの基本| EMC 村の民 を参考にし、線の向きをちゃんと見て間違えなければ OK だった。

少し不格好だが、無事にハンダ付けは完了した。ちゃんと動くか不安だったのだが、ボタン電池を入れてみたら、ちゃんと動くではないか。これは感動したと同時に、自分が難しいと思っていることでも、ちゃんと手続きを踏めば意外と簡単に達成できることもあるのだなと思った。

Keyfuda 04 を組み立て、十分動くことを確認したので、遊舎工房のネットショップでもうひとつキットを買った。こちらも問題なく組み立てることができ、遂に完全無線の分離式キーボードが手に入った!

キーバインドのカスタマイズ

さてここからが本当に楽しい時間である。 Keyfuda 04 は片側 20 鍵しかない極小キーボードなので、キーバインドをかなり工夫しないと満足に入力できない。特に記号キーはレイヤーに押し込むことになるので、慣れが必要だ。

なお、両手のキーボードを設定しなければならないので、 QMK ファームウェアではなく Linux 専用リマッパの keyd を用いてソフトウェア的に実現している。本当は OSX や Windows などでも使えるように、 QMK で全て完結するようにしたかったのだが、左右の BLE Micro Pro を協調させる設定(Master/Slave)がちょっと面倒そうだったので、いったんは妥協した。

色々移行錯誤した結果、今は下記の仕様に落ち着いている。

Alphabet レイヤー

1
2
3
4
| q    | w    | e     | r    | t    |=====| y    | u    | i    | o    | p    |
| a    | s    | d     | f    | g    |=====| h    | j    | k    | l    | RET  |
| z    | x    | c     | v    | b    |=====| n    | m    | ,    | .    |/ RSFT|
| CTRL | NAV  | SUPER | ALT  | SPC  |=====| CTRL | SYM  | HENK | F23  | FN   |
  • / RSFT は、単押しでスラッシュ、長押しで Shift という挙動をする
    • / はそこまで頻繁に押すキーではないので、そこまで打ち間違いが無い
  • RET はセミコロンを犠牲にしてでも、この位置に置きたかった
    • 最初は j+k 同時押しで実現していたが、頻度が高い割にミスしやすいので単発で打てるようにした
  • 他に下記の同時押しキーバインドを設定している
    • d+fESC
    • c+v でシフトキー
    • q+wTAB
  • F23 は、どう使うか未定のキー
    • 拡張可能なキーが一つあると、心の余裕が生まれる気がした

親指 CTRL はかなり迷ったが、ほとんどのキーと同時押しできるようにするためにはこの位置しかなかった。今ではかなり快適だ。

Symbol レイヤー

1
2
3
4
| 1    | 2    | 3    | 4    | 5    |=====| 6    | 7    | 8    | 9    | 0    |
| 6    | 7    | 8    | 9    | 0    |=====| -    | =    | [    | ]    | RET  |
| `    | ;    | '    | \    |      |=====| `    | ;    | '    | \    | RSFT |
|      |      |      |      |      |=====|      | SYM  |      |      |      |

SYM を押すとこのレイヤーになる。

左手に記号を配置したが、まだけっこう改良の余地がある気がする。数字を押しやすくしているのは、プログラミングで多用する () を押しやすくするためだ。キーがまだ少し余っているので、何かできそうだが、とりあえず全ての記号を満足して押せるようにはなっている。

FN レイヤー

1
2
3
4
| F1   | F2   | F3   | F4   | F5   |=====|      |      |      |      | Print|
| F6   | F7   | F8   | F9   | F10  |=====|      | PgUp | UP   | PgDn |      |
| F11  | F12  |      |      | BSPC |=====|      | LEFT | DOWN | RIGHT| RSFT |
|      |      |      |      |      |=====|      |      |      |      | FN   |

右下の FN を押すとこのレイヤーになる。

右下を常に押下することになるので、なるべく右手上部は押さなくて良いようにした。また、右手のみでブラウザのタブ切り替えをできるようにもしている。

しばらく使ってみた評価

とりあえず、一旦は満足するキーボードを作ることができた。が、こういうものは常用しないと問題点が見えてこない。一ヶ月くらい経過したので、現時点での使用感をメモっておく。

  • Bluetooth は Linux において信用できないと思っていたのだが、意外と問題なく使えている
    • たまに繋がらなかったり、時間がかかったり、遅延が気になったりするが、少しだけゆっくり打ったりすれば大丈夫
  • Kailh 白軸はうるさすぎる
    • 家の中だったら楽しいが、新幹線でやってみたらうるさすぎて使えなかった
    • 今度遊舎工房で試し打ちして、茶軸か赤軸に変更予定
    • もしくは、外出用にもう 1 セット作るのもあり
  • Enter キーは大事
    • Enter を右手小指で単発で打てるようにしてから、飛躍的に使いやすくなった
    • 英語だったら問題ないかもだが、日本語は Enter を多用するので、単発で打てるようにすべき

細かい問題点はあるものの、分離式で無線・ロープロファイルを実現できるメリットの方が遥かに大きい。かさばらないし、ケーブルがごちゃつかないし、パームレスト不要でストレス無く打てる。

このキーボードで、少なくとも 1 年は快適に使えそうだ。もし満足できなかった場合、 Corne Chocolate を無線化してみたい。その頃には、 BLE Micro Pro 以外の選択肢が出ているかもしれないし、 QMK Firmware も進化しているだろう。自分自身も新しい知見を得ている可能性もある。今後も楽しみだ。

おわりに

この記事は、 Keyfuda 04 を 2 台使って書きました。

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